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広島高等裁判所 昭和55年(く)26号 決定 1980年10月20日

少年 K・S(昭三八・四・五生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件の趣旨及び理由は、少年の作成した抗告申立書に記載されたとおりであるが、要するに、少年はこれまで何回も父に迷惑をかけてきており、このままでは少年院退院後も同じことを繰り返すおそれがあるので、今回は、自分で自分の罪を償い、一人でやり直すという意味で、少年院ではなく刑事処分を受けたいから原決定を取消されたい、というのである。

そこで、検討するに、少年法三二条は「保護処分の決定に対しては、決定に影響を及ぼす法令の違反、重大な事実の誤認又は処分の著しい不当を理由とするときに限り、少年、その法定代理人又は附添人から、二週間以内に、抗告することができる。」と規定し、保護処分に対し少年の側にだけ不服申立の途を開いているのであるが、少年法は少年の可塑性、未熟性にかんがみ、その非行に対しても成人とは異つた取扱いをすることによつてその健全育成を企図したものであり、その保護処分は刑事処分によつて受ける少年の現在及び将来の不利益を排し、適切な矯正教育を施そうとするものであるから、これが刑事処分に比して利益なものであること、換言すれば、刑事処分が保護処分より不利益なものであることは明らかなところである。したがつて、特別少年院送致の保護処分よりも刑事処分を望むという所論は、少年にとつて不利益な措置を求める主張であり、かかる抗告は上訴の利益がないことに帰着するから不適法といわなければならない。なお、本件各少年保護事件記録及び少年記録を精査しても、少年の資質と環境に照らし特別少年院に送致した原決定に、処分の著しい不当その他の過誤は見当らない。本件抗告には理由がない。

よつて、少年法三三条一項に則り本件抗告を棄却することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 石橋浩二 裁判官 竹重誠夫 堀内信明)

抗告申立書<省略>

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